青山綜合会計事務所シンガポール代表・長縄順一、成田武司の寄稿記事が掲載されました。
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2015年02月
みずほ銀行発行のMizuho Asia Gateway Review 2015年2月号に 青山綜合会計事務所シンガポール代表・長縄順一、成田武司の寄稿記事が掲載されました。
「出国税~平成27 年度税制改正大綱の解説~」
青山綜合会計事務所シンガポール
長縄順一 日本国公認会計士・税理士
成田武司 日本国税理士
はじめに
日本企業の海外進出を主な要因として、海外在留邦人数が毎年コンスタントに増加を続けています。外務省によると、2014年の海外在留邦人数は約126万人となっており、10年前より30万人以上増加しています。そのような中、平成27年度税制改正大綱において、国外転出をする場合の譲渡所得等の特例、いわゆる「出国税」について言及されており、2015年7月1日から出国税の導入が検討されています。 多額の含み益がある有価証券を保有している富裕層の租税回避行為に対処するために、導入が検討されてきました。しかし、この出国税は、企業オーナーだけでなく、企業の駐在員であっても一定の要件を満たせば、一律に課税されることになります。 本稿では平成27年度税制改正大綱をもとに出国税を解説します。
対象者
次のいずれの要件も満たす居住者が対象となっています。- 国外転出時等における有価証券、匿名組合契約の出資の持分の価額及び未決済のデリバティブ取引等の決済に係る利益の額又は損失の額の合計額が1億円以上である者
- 国外転出の日前10年以内に、国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年超である者(一定の期間を除く。)
このため、非公開会社のオーナーの保有する株式の時価総額が1億円以上の場合や、上場会社の創業社員等で保有する株式の時価総額が1億円以上の場合等が対象となります。
未実現所得の申告及び納付期限
- 国外転出年分の確定申告までに納税管理人の届出を行った場合国外転出時の時価で譲渡したものとみなして計算した所得を翌年3月31日までに申告及び納付を行うことになります。
- 国外転出年分の確定申告までに納税管理人の届出を行わなかった場合国外転出時の3ヶ月前の時価で譲渡したものとみなして課税され、その申告納付は国外転出時までに行うことになります。
納税の猶予
出国税は未実現のキャピタルゲインに対する一律課税であり、納税者に担税力がないため、納税者は納税猶予の制度の適用を受けることができます。納税猶予は国外転出日から5年を経過する日(同日前に帰国する場合には、同日とその者の帰国の日から4ヶ月を経過する日のいずれか早い日)までとされていますが、申請により国外転出の日から10年を経過する日までとすることができます。次の全ての要件を満たす場合に納税猶予の制度が適用されています。- 国外転出年分の確定申告書に納税猶予を受けようとする旨を記載すること
- その確定申告書の提出期限までに相応の担保を提供すること
- その確定申告書の提出期限までに納税管理人の届出をすること
納税猶予を受けている者は納税猶予の期限までの各年の12月31日における有価証券等及びデリバティブ取引等の所有に関する届出書をその翌年3月15日までに税務署長に提出する必要があります。その届出書を提出期限までに提出しなかった場合には、その提出期限の翌日から4ヶ月を経過する日が納税猶予の期限とされています。なお、納税猶予の期限の到来により、所得税を納付する場合には、その納税猶予がされた期間の利子税を納付する義務が生じます。
納税猶予の適用を受けた者が譲渡等をした場合納税猶予の適用を受けている者が、その納税猶予の期限までに有価証券又は未決済デリバティブ取引等の譲渡又は決済等をした場合には、譲渡等があった部分については、譲渡等があった日から4ヶ月を経過する日が納税猶予の期限とされています。ただし、譲渡価額が国外転出時の時価を下回るときは譲渡等があった日から4ヶ月を経過する日までに更正の請求をすることにより、その国外転出年分の所得税額の減額をすることができます。納税猶予の期限到来日においても同様とされています。この更正の請求の期間制限は、一定の場合を除き、7年とされています。二重課税の調整
納税猶予の適用を受けている者が納税猶予の期限までに有価証券等又は未決済デリバティブ取引等の譲渡等をし、外国所得税を納付する場合において、二重課税の調整がされないときは日本で更正の請求をすることにより、国外転出年分の外国所得税を納付したものとみなして、外国税額控除の適用を受けることができます(一定の場合は対象外となります。)。納税猶予の期限を延長した場合の相続税等の納税義務の判定
相続税法上、相続人(贈与者)及び被相続人(受贈者)双方がシンガポールに移住し、5年超経過すれば、その相続人(贈与者)及び被相続人(受贈者)は制限納税義務者となり、相続若しくは遺贈又は贈与時には国内財産のみが課税されることになります。しかし、納税猶予の期限を延長した者は、相続税又は贈与税の納税義務の判定に際して、納税猶予がされた期間中は、相続若しくは遺贈又は贈与前5年以内のいずれかの時において国内に住所を有していた場合と同様の取扱とされています。このため、例えば2015年7月1日以前に、親子で海外に移住し、5年超経過後に国外財産を親から子に相続又は贈与すれば、日本において相続税又は贈与税の課税はなされないことになります。しかし、2015年7月1日以降に納税猶予を受けて出国した場合には、国内財産のみでなく、国外財産も課税の対象となりますので注意が必要です。
おわりに
出国税の課税対象者で、10年以内に帰国を予定して出国する場合には、納税猶予の手続きを行い、担保を提供し、帰国後に更正の請求を行うというケースが考えられます。このようなケースで日本国内で確定申告が不要な場合であっても、毎年確定申告を行わなければならず、2015年7月1日以降に出国する場合には十分な注意が必要となります。また、出国時における有価証券等の時価の把握方法など、税務執行面について今後どのような行政手続きの整備がされていくかが着目されます。長縄 順一
Aoyama Sogo Accounting Office Singapore Pte. Ltd.日本国公認会計士・税理士
慶應義塾大学経済学部卒。1998年監査会社トーマツに入所し、監査業務、株式公開支援業務に従事した後、2001年より青山綜合会計事務所に入所。数多くのファンド組成・管理、クロスボーダー取引へのアドバイザリー業務に携わる。その後、同社にて海事グループ及びグローバル・アドバイザリーグループを統括し、2012年より青山綜合会計事務所シンガポールの代表としてシンガポールにて日系企業の海外進出支援業務及び海外ファンド管理業務を担当。
成田 武司
Aoyama Sogo Accounting Office Singapore Pte. Ltd.日本国税理士
明治大学経営学部卒。2005年より会計事務所にて、幅広い業種の事業会社の会計税務業務に従事した後、2011年より青山綜合会計事務所に入所。金融債権・不動産などのストラクチャードファイナンス業務に携わる。その後、2013年より青山綜合会計事務所シンガポールにて日系企業の海外進出支援業務及び海外ファンド管理業務を担当。