海事総合誌『COMPASS』2012年1月号に掲載されました。
※ 無断転載を禁じます
昨今ニーズが高まる国内船主の海外での事業展開に関する支援体制をより一層強化するため、現地拠点が必要と判断し、シンガポールに子会社を設立いたします。この計画は、今後の海外におけるコンサルティング業務強化の一環であり、将来的には他分野にも対応していく所存です。
青山綜合会計事務所がシンガポール進出
青山綜合会計事務所が世界の海事センター、シンガポールに進出する。国内船主(船舶オーナー)の海外展開を支援する中、現地拠点の設置が必要になったと判断。子会社を設立することで、船主に対する進出支援や国際税務、事業承継などのコンサルティング業務を一段と強化する。
「日本語対応が可能な現地拠点の設置は船主のニーズが極めて高い」。木原知己執行役員は進出の背景をこう説明する。船主は円高や高い法人税率などから日本での事業に危機感を持っており、シンガポール進出熱がかつてない高まりを見せている。同事務所はこうしたニーズに対応し、船主の競争力強化を側面支援することにした。
青山綜合会計は、監査法人トーマツからの独立者数人が1999年に設立した。金融に強みを持つ会計事務所としての特色を持ち、現在は公認会計士、税理士など約140人が所属している。
ここ数年は海運ビジネスを強化してきた。なぜ、会計事務所が海運との結びつきを深めたのか。それは2009年ごろにさかのぼる。船舶融資を扱う取引金融機関と仕事をする中で、瀬戸内地方などに拠点を置く船主に国際税務のアドバイスを開始したのがきっかけだ。これを機に船主から海外進出に関する多くの相談が寄せられるようになったという。
船主ビジネスは海外進出に伴う国際税務、事業承継、相続税など税務に関する範囲が多岐にわたることもあり、10年11月には「海事グループ」を設置。海運専門組織を立ち上げることで、多様な船主ニーズに迅速かつ正確に対応できるようにした。
海事グループは日本の会計事務所としては初めての海運専門組織。同時に、新生銀行や東京スター銀行で豊富な船舶融資経験をもつ木原知己氏を招請し、組織、人員の両面から海運事業を拡大、多角化した。
新グループ設置については同社は「ベースとなる事業は会計や税務相談業務だが、船主と取引するには海運業界の全体像を把握する必要がある。また、船主ビジネスは為替、海運市況、金利と数多くのリスクがある。事業規模が拡大していく中で経営体制の強化を迫られる船主もいるだろう。税務だけ詳しくても限界があるため、木原氏の招請、専門組織の設置などで船主向けのコンサルティング業務を強化したい」とした。
シンガポール子会社の設立は、こうしたコンサル業務強化の一環。海事グループが主導的な役割を担って拠点設置を推進した。設置当初のシンガポール拠点の業務は海運が中心になり、将来的には他分野にも展開していく方針だ。
海事グループのサービスメニューは①海外進出支援業務②国際税務③事業承継・相続税④SPC管理業務---の4本柱。このうち海外への進出支援では進出計画の立案、実行支援にはじまり、進出国での会計、税務、法律、労務などのサポートを行う。こうした業務を今後は日本、シンガポールの両拠点で実行することになり、船主の利便性が高まりそうだ。
関係者の間では、今後、船主のシンガポール進出が加速するとの見方が多い。日本での税制に対する危機感が極限にまで達しているからだ。高額の税負担は、海外船主との競争上不利に働く。税制の中でも「事業存亡の危機」(船主)と深刻な問題なのが相続税。数年前の時価評価導入に伴い、税を払えない最悪の事態も想定できる。
日本の税制では「世界と戦えない」(船主)という意識が急速に広まっており、「シンガポールに移転する船主は今後急増するだろう」(金融関係者)。こうしたニーズに対する支援ビジネスが拡大していくのは間違いなく、青山綜合会計はその先駆けともいえる。